カスハラ対策と就活セクハラ防止義務化|2026年10月1日施行で企業が対応すべきこと

この記事は、以下のような読者を対象にしています。
- 2026年10月1日の法改正に向けて、自社のカスハラ対策を何から始めればよいか具体的に整理したい人事・労務担当者
- 人事機能を兼務する中小企業の経営者やバックオフィス管理職で、就活生への対応も含めた新たな義務化の全体像を把握したい人
- 就業規則の改定や相談窓口の整備を控え、カスハラと求職者向けセクハラ対応を同時並行で進める段取りを組みたい担当者
- 採用面接やインターンシップの運営に関わり、応募者への言動がどこまで規制対象になるのか把握しておきたい採用担当者
- 面接やOB・OG訪問で困った言動を受けた経験があり、就活セクハラの相談先や対処法を知っておきたい就活生・インターン生・転職活動中の求職者
- 予算をかけずに最低限の対応を済ませたい個人事業主や小規模事業者で、公的な無料資料だけで準備を終わらせたい人
2026年10月1日から、カスハラ対策と就活セクハラへの対応が、企業規模を問わずすべての事業主に義務化されます。根拠は2025年6月11日公布の改正労働施策総合推進法と改正男女雇用機会均等法。厚生労働省も施行に向けた周知を続けています。この記事では、何が変わるのか、自社は対象なのか、施行日までに何を整備すべきかを一次資料に沿って整理します。準備工数を抑える重複タスク早見表と、就活生・求職者本人が使える相談先まで一本で確認できる構成です。
- 1. この記事でわかること|カスハラ対策と就活セクハラ防止義務化の要点
- 2. カスハラ対策と就活セクハラの義務化はいつから|改正の背景と施行日を整理
- 3. カスハラ対策と就活セクハラ防止義務化は自社も対象?|企業規模を問わない適用範囲
- 4. カスハラ対策の義務化対象となる「カスタマーハラスメント」とは|定義と判断基準
- 5. 就活セクハラ防止義務化で対象が広がる「求職者等」とは|就活生・インターン生も対象に
- 6. カスハラ対策・就活セクハラ防止義務化で事業主が講ずべき10・11の措置
- 7. カスハラ対策を怠るとどうなる|就活セクハラ防止義務化の罰則の中身
- 8. 「罰則が刑事罰ではないから後回しでよい」は誤解|カスハラ対策・就活セクハラ防止義務化の実態データ
- 9. カスハラ対策と就活セクハラ防止義務化の重複タスク早見表|統合準備ロードマップ
- 10. 中小企業・個人事業主がカスハラ対策と就活セクハラ防止義務化に低コストで対応する方法
- 11. 就活生・求職者がカスハラ対策・就活セクハラ防止義務化で知っておきたい相談先と対処法
- 12. カスハラ対策・就活セクハラ防止義務化のよくある質問
- 13. カスハラ対策・就活セクハラ防止義務化のまとめ|2026年10月1日までにすべきこと
- 14. 参考情報
この記事でわかること|カスハラ対策と就活セクハラ防止義務化の要点

- 公布は2025年6月11日、カスタマーハラスメント対策と求職者等セクシュアルハラスメント対策の義務化施行は2026年10月1日
- 根拠法は2つ。カスハラ対策は労働施策総合推進法(告示第51号)、就活セクハラは男女雇用機会均等法(告示第52号)で、守られる人も想定される行為者も異なる
- 適用は企業規模を問わず全企業。パワハラ防止措置のときのような中小企業向けの猶予期間はない
- カスタマーハラスメントは「顧客等の言動」「社会通念上許容される範囲を超える」「就業環境が害される」の3要素をすべて満たすもの。正当な申入れは該当しない
- 就活セクハラで守られる求職者等には求人への応募者・採用に資する活動の参加者・実習生が含まれ、インターンシップやOB・OG訪問、SNSでのやり取りも対象
- 事業主が講ずべき雇用管理上の措置義務はカスハラ10項目・求職者等セクハラ11項目。方針の明確化、相談体制の整備、事後対応、プライバシー保護・不利益取扱いの禁止の4分類で整理でき、カスハラにはこれに加えて抑止のための措置が1項目ある
- 刑事罰はない。厚生労働大臣の助言・指導・勧告、勧告に従わない場合の企業名公表、報告の請求という行政上の仕組みで実効性を確保する(均等法にも同様の助言・指導・勧告・公表の仕組みがある)
- 過去3年間にカスハラの相談があった企業は27.9%、就活セクハラを受けた学生はインターンシップ中30.1%、それ以外の就職活動中31.9%
- 方針文書・相談窓口・周知は両制度で共通化でき、追加が要るのは求職者等への窓口周知と面接官向けルールが中心
- 被害に遭った就活生・求職者は、記録を残したうえで企業の相談窓口や都道府県労働局雇用環境・均等部(室)に相談できる
カスハラ対策と就活セクハラの義務化はいつから|改正の背景と施行日を整理

施行日は2026年10月1日です。ややこしいのは、動き出すのが1つの法律ではない点。根拠法も守られる人も違う2つの制度が同じ日に始まります。1つの制度と思い込むと、片方だけ整えて「対応済み」と判断してしまいます。
公布は2025年6月11日、施行は2026年10月1日|カスハラ対策と就活セクハラ防止義務化の時系列
- 2025年6月11日:改正労働施策総合推進法・改正男女雇用機会均等法が公布(参考:厚生労働省「労働施策総合推進法等の一部を改正する法律の公布について」)
- 2026年2月26日:カスハラ対策の指針(告示第51号)と求職者等セクハラ対策の指針(告示第52号)が告示
- 2026年10月1日:施行期日を定める政令(令和8年政令第17号)により義務化が施行。両指針も同日から適用
公布から施行まで1年4か月弱。ただ、企業が手を動かす拠りどころとなる指針が固まったのは2026年2月26日です。実際に動ける期間は長くありません。
根拠法が違う2つの制度|カスハラ対策(労働施策総合推進法)と就活セクハラ(男女雇用機会均等法)の対比表
| 比較する軸 | カスハラ対策 | 就活セクハラ(求職者等セクハラ)対策 |
|---|---|---|
| 根拠法・条文 | 労働施策総合推進法 第33条 | 男女雇用機会均等法 第13条 |
| 指針 | 令和8年厚生労働省告示第51号 | 令和8年厚生労働省告示第52号 |
| 守られる人 | 事業主が雇用する労働者 | 求職者等(求人への応募者、採用に資する活動の参加者、実習生) |
| 想定される行為者 | 顧客・取引先など事業主の外部の人 | 自社の役員・従業員(採用担当者やOB・OG訪問に応じる社員を含む) |
| 主な場面 | 業務遂行中の顧客対応 | 採用面接、就職説明会、インターンシップ、社員訪問、オンラインでのやり取り |
| 講ずべき措置 | 10項目 | 11項目 |

守る相手が「社内の人」か「まだ社内にいない人」かで分かれる、と捉えると整理しやすくなります(参考:厚生労働省「職場における顧客等の言動に関する指針(告示第51号)」、厚生労働省「求職活動等における性的な言動に関する指針(告示第52号)」)。
なおカスハラは、東京都が国に先行して2025年4月1日に東京都カスタマー・ハラスメント防止条例を施行しています(参考:東京都産業労働局「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」、東京都「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例施行」)。こちらは罰則のない理念・努力義務型。事業主に雇用管理上の措置を義務づける国の改正法とは性格が異なり、条例対応済みでも国の義務を満たしたことにはなりません。
カスハラ対策と就活セクハラ防止義務化は自社も対象?|企業規模を問わない適用範囲

対象です。企業規模を問わず、労働者を雇用するすべての事業主が対象になります。厚生労働省の資料にも「事業主の皆さまへ(全企業が対象です)」と明記されています(引用:厚生労働省「ハラスメント対策・女性活躍推進に関する改正ポイントのご案内」)。
パワハラ防止措置では中小企業に猶予期間が設けられましたが、今回は規模別の猶予や適用除外を確認できません。従業員が数人の事業所でも施行日は同じです。

「うちの規模で本当に全部やるのか」と身構えるかもしれませんが、やるべきことの総量は思うほど多くありません。厚生労働省の公開資料をそのまま使えば費用ゼロで最低限の義務を満たせます。手順は『中小企業・個人事業主がカスハラ対策と就活セクハラ防止義務化に低コストで対応する方法』にまとめました。
カスハラ対策の義務化対象となる「カスタマーハラスメント」とは|定義と判断基準

カスタマーハラスメントとは、顧客等の言動のうち社会通念上許容される範囲を超え、労働者の就業環境を害するものを指します。顧客からの苦情や要望がすべて該当するわけではありません。
カスハラの3要件|カスハラ対策の義務化で「社会通念上許容される範囲」をどう線引きするか
指針は次の3要素をすべて満たすものをカスタマーハラスメントと定義しています。
- 職場において行われる顧客等の言動であること
- 労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして、社会通念上許容される範囲を超えたものであること
- その言動により労働者の就業環境が害されること
指針が「客観的にみて、社会通念上許容される範囲で行われたものは、いわば正当な申入れであり、職場におけるカスタマーハラスメントには当たらない」と明示している点にも注目してください(引用:厚生労働省「職場における顧客等の言動に関する指針(告示第51号)」)。基準が「業務の性質その他の事情に照らして」と書かれているため、線引きは業種・業態ごとに具体化する必要があります。
クレームとの違いは?カスハラ対策の義務化対象になる言動とならない言動の具体例
| 区分 | 言動の例 |
|---|---|
| カスハラに当たり得る | 長時間の拘束や同じ叱責の繰り返し、土下座や私的な謝罪の要求、人格否定・差別的な発言、従業員個人の氏名や写真をSNSで拡散する行為、脅迫的な言動 |
| 正当な申入れに当たり得る | 商品の不具合の指摘と交換・返金の要求、対応の遅れへの抗議、契約内容の説明を求めること、サービス改善の提案 |

線引きを現場任せにすると、対応は2方向に振れます。正当な申入れまでカスハラ扱いして顧客対応の質が落ちるか、深刻な言動を「お客様だから」と我慢させ続けるか。自社で起きた事例を数件書き出し、方針文書に「これはカスハラ」「これは正当な申入れ」と例示しておくだけで、現場が迷う回数は目に見えて減ります。
就活セクハラ防止義務化で対象が広がる「求職者等」とは|就活生・インターン生も対象に

求職者等とは、企業の求人に応募する求職者、事業主が実施する採用に資する活動に参加する者、教育実習・看護実習その他の実習を受ける者を指します。これまで均等法が守っていたのは雇用する労働者でした。今回、雇用関係が生じる前の人まで対象が広がります。
就活セクハラ防止義務化の対象範囲|就活生・インターン生・転職活動中の応募者・OB/OG訪問先
指針が挙げる求職者等の範囲は次のとおりです(参考:厚生労働省「求職活動等における性的な言動に関する指針(告示第52号)」)。
- 求職者(企業の求人に応募する者)
- 求職者以外の者であって、事業主の実施する労働者の採用に資する活動に参加する者
- 教育実習、看護実習その他の実習を受ける者
求人に応募する求職者には新卒・中途の区別が置かれていないため、転職活動中の応募者もここに含まれると読むのが自然です。ただし指針の条文上「転職活動中」「中途採用」という語が使われているわけではなく、説明の中心は新卒学生の就職活動やインターンシップです。社内資料は指針どおり「求人に応募する者」と書いておくと解釈がブレません。
もう1点。指針は、求職活動等におけるセクシュアルハラスメントには「同性に対するものも含まれる」と明記しています。そのうえで「被害を受けた者の性的指向又はジェンダーアイデンティティにかかわらず」対象になるとしています(引用:厚生労働省「求職活動等における性的な言動に関する指針(告示第52号)」)。異性間だけを想定した研修では足りません。
オンラインも対象|就活セクハラ防止義務化がカバーする面接・説明会・SNSでのやり取り
指針は求職活動等の例を挙げています。採用面接への参加、就職説明会への参加、企業の雇用する労働者への訪問、インターンシップへの参加、教育実習・看護実習等の受講です。さらに、SNS等のオンラインを介したものやオンライン上で行われるものも含むとしています。
つまり会議室の外のやり取りも対象です。OB・OG訪問後に続く個人的な連絡、選考状況を伝えるダイレクトメッセージ、リクルーターと学生の1対1のオンライン面談。記録が残りにくく、人事部が把握しないまま進む領域でもあります。
自社のリクルーターは、学生と個人のSNSアカウントでやり取りしていませんか。把握できていないなら、連絡手段を会社が管理するメールや採用管理システムに限定するルールから始めてください。会社から見えない接点を減らすことが、そのまま防止措置になります。

カスハラ対策・就活セクハラ防止義務化で事業主が講ずべき10・11の措置

雇用管理上の措置義務は、カスハラで10項目、求職者等セクハラで11項目です(参考:厚生労働省リーフレット「カスタマーハラスメント対策、求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が義務化されます!」)。多く見えますが、分類し直すと重なりが見えてきます。
| 分類 | カスハラ | 求職者等セクハラ |
|---|---|---|
| 方針の明確化・周知啓発 | 2項目 | 3項目 |
| 相談体制の整備 | 2項目 | 2項目 |
| 事後の迅速かつ適切な対応 | 3項目 | 4項目 |
| 抑止のための措置 | 1項目 | 該当なし |
| プライバシー保護・不利益取扱いの禁止 | 2項目 | 2項目 |
骨格はほぼ同じ。カスハラ側にだけ「抑止のための措置」があるのは、行為者が社外の顧客等であり、対応を打ち切る判断が必要になるためです。
方針の明確化と周知啓発|カスハラ対策・就活セクハラ防止義務化に共通する最初の一歩
最初にやるのは、ハラスメントを行ってはならないという方針と行為者への対処方針の文書化です。作るだけでは足りず、周知・啓発までがセット。
- カスタマーハラスメントに関する方針(該当する言動の例、発生時の対応方針)を文書化し、労働者に周知する
- 求職活動等における性的な言動を行ってはならない旨の方針を明確化し、採用に関わる者に周知する
- 行為者に対する厳正な対処方針を定め、就業規則等の文書に規定する
両制度の方針は1つの文書にまとめて構いません。抜けを防ぐには、リーフレットの措置項目を見出しとしてそのまま並べ、その下に自社の内容を書き足すやり方が確実です。
相談体制の整備と事後対応|カスハラ対策・就活セクハラ防止義務化で求められる措置の中身
相談体制では、窓口をあらかじめ定めて周知すること、担当者が内容や状況に応じて適切に対応できるようにすることが求められます。置くだけでなく、対応できる状態かまでが措置の中身です。事後対応の流れは次のとおり。
- 相談を受けたら、事実関係を迅速かつ正確に確認する
- 被害を受けた労働者・求職者等への配慮の措置を適正に行う
- 行為者への措置を適正に行う(行為者が自社従業員なら就業規則に基づく対処が想定される)
- 再発防止に向けた措置を講じる
注意したいのは、求職者等セクハラの相談窓口は求職者等に周知する必要がある点。社内掲示やイントラネットだけでは応募者は存在すら知りません。求人票、採用サイト、説明会資料など、応募者の目に触れる場所への記載が要ります。

プライバシー保護と不利益取扱いの禁止|カスハラ対策・就活セクハラ防止義務化が相談者を守る仕組み
見落とされがちですが、相談者の保護も措置義務に含まれています。
- 相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、その旨を周知すること
- 労働者が相談したこと等を理由として、解雇その他の不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること
ここで効いてくるのが主語です。求職者等セクハラの指針が定めているのは、労働者が解雇その他の不利益な取扱いを受けない旨を定め、労働者に周知・啓発することです。ここでいう不利益な取扱いとは、事実関係の確認などの措置に協力したことや、都道府県労働局に相談等を行ったことを理由とするものを指します。条文上の主語は一貫して「労働者」です(参考:厚生労働省「求職活動等における性的な言動に関する指針(告示第52号)」)。

では求職者等本人はどうでしょうか。相談が選考に響くのではという不安は自然なものですが、求職者等本人への選考上の不利益取扱いを直接禁じる条文は、指針本文の範囲では確認できていません。ただ、法の趣旨からは同様の配慮が求められると考えられます。求職者等向けの案内文にも「相談内容が選考の判断に影響することはありません」と書き添えておくと、応募者は安心して相談できます。
相談件数がゼロでも、ハラスメントが起きていないとは限りません。不利益がないと伝わる書きぶりか、周知文を点検してみてください。
カスハラ対策を怠るとどうなる|就活セクハラ防止義務化の罰則の中身

措置義務に違反しても、刑事罰は科されません。実効性は行政上の仕組みで確保されます。ここを正確に押さえないと、リスクの見積もりを誤ります。
刑事罰ではなく行政指導|カスハラ対策・就活セクハラ防止義務化の実効性確保の仕組み
労働施策総合推進法の条文を確認すると、実効性確保は3層です(参考:厚生労働省法令等データベース「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」)。
- 助言・指導・勧告:厚生労働大臣は、法律の施行に関し必要があると認めるときに、事業主に対して助言、指導又は勧告をすることができる(第42条第1項)
- 企業名の公表:カスハラの措置義務規定に違反している事業主に勧告をした場合において、勧告を受けた者がこれに従わなかったときは、その旨を公表することができる(第42条第2項)
- 報告の請求:厚生労働大臣は事業主に対して報告を求めることができる(第45条)
いきなり企業名が公表されるわけではありません。報告の請求や助言・指導があり、勧告にも従わなかった段階で公表という順序です。

求職者等セクハラ側は、均等法の該当条文の番号までは一次資料で確認できていません。ただ、均等法にも同様の助言・指導・勧告・公表の仕組みがあり、カスハラと同じ枠組みで実効性が確保されると考えておくのが安全です。
「罰則が刑事罰ではないから後回しでよい」は誤解|カスハラ対策・就活セクハラ防止義務化の実態データ

刑事罰がないと聞けば優先順位を下げたくなります。ただ、実態調査の数字を並べると、その判断は割に合いません。
相談経験企業27.9%・就活生の約3割が被害|カスハラ対策・就活セクハラ防止義務化の実態データ
厚生労働省の委託調査によると、過去3年間に勤務先でハラスメントを受けたと回答した労働者の割合は、パワハラ19.3%、セクハラ6.3%、顧客等からの著しい迷惑行為10.8%。企業調査では、過去3年間に顧客等からの著しい迷惑行為の相談があったと回答した企業が27.9%でした(引用:厚生労働省「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査報告書(概要版)」)。この27.9%は前回の令和2年度調査から8.4ポイント増えた数字だと紹介されています(参考:政府広報オンライン「カスハラとは?法改正により義務化されるカスハラ対策の内容やカスハラ加害者とならないためのポイントをご紹介」)。
就活セクハラの数字はさらに直接的です。2020〜2022年度卒業でインターンシップ中に一度以上受けたと回答した割合は30.1%、インターンシップ以外の就職活動中は31.9%。行為者として最も多かったのは、インターンシップ中が「インターンシップ先で知り合った従業員」で47.4%。それ以外の就職活動中は「大学のOB・OG訪問を通して知り合った従業員」で38.3%でした(引用:厚生労働省「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査報告書(概要版)」)。
およそ3人に1人という被害割合。そして行為者の最多層が、企業が採用のために現場から送り出している従業員だという事実です。

罰則が軽いは誤解|カスハラ対策・就活セクハラ防止義務化を放置した場合の代償
刑事罰がなくても、対応しなかった場合のコストは3方向あります。
1つ目は行政対応の負荷。報告を求められれば社内調査と資料提出が発生し、助言・指導が入れば改善状況の説明が続きます。通常業務の合間に、こうした対応を回すことになります。
2つ目は企業名公表による採用への影響。公表は法律に基づく措置で、公表情報は検索で残ります。就活生や求職者は、応募前に社名を調べます。前段のデータのとおり、就活セクハラの行為者として最も多いのは採用接点にいる従業員です。採用活動そのものが、公表リスクの発生源になり得る構図です。
3つ目は民事上のリスク。措置義務を果たしていなかった事実は、安全配慮義務違反や使用者責任に基づく損害賠償請求が争われた際、企業側に不利に働く可能性があります。

対処は難しくありません。方針の文書化、相談窓口の設置、周知の3点から着手できます。完璧を目指す前に、指針が求める措置を並べ、着手済みかどうかを可視化するのが先です。次の早見表をそのまま使ってみてください。
カスハラ対策と就活セクハラ防止義務化の重複タスク早見表|統合準備ロードマップ

人事労務を一人で兼務している場合、カスハラと就活セクハラを別プロジェクトとして走らせると工数が倍になります。実際は、一度の対応で両方の義務を満たせるタスクが少なくありません。
4分類で整理する早見表|カスハラ対策と就活セクハラ防止義務化を一度で満たせるタスク
| 分類 | タスク | 補足 |
|---|---|---|
| 両方に共通 | ハラスメント防止方針の文書化 | 1つの文書にまとめれば両方の「方針の明確化」を満たせる |
| 両方に共通 | 相談窓口の設置と担当者の指名 | 窓口は同一で可。受付ルートを労働者用と求職者等用の2系統に |
| 両方に共通 | プライバシー保護と不利益取扱い禁止の明記・周知 | 方針文書と就業規則に同趣旨の条項を置ける |
| 両方に共通 | 相談受付から事実確認・事後対応までの手順書 | 相手が顧客か自社従業員かで分岐を作る |
| カスハラ固有 | 著しい迷惑行為への対処方針(悪質ケースの判断基準、警察・弁護士への連絡ライン) | 行為者が社外のため打ち切り基準が要る |
| カスハラ固有 | 正当な申入れとの線引き例の作成と現場共有 | 業務の性質に応じた自社独自の例示が必要 |
| カスハラ固有 | 被害を受けた労働者への配慮措置(担当替え、健康相談への接続) | 事後対応の一部 |
| 就活セクハラ固有 | 求職者等への相談窓口の周知(求人票・採用サイト・説明会資料) | 社内周知だけでは要件を満たさない |
| 就活セクハラ固有 | 面接官・リクルーター・インターン受入部署の行動ルールと研修 | OB・OG訪問やSNS連絡の扱いを含める |
| 就活セクハラ固有 | 採用に関わる者への「性的な言動を行ってはならない」旨の周知 | 人事部以外の現場社員が対象になる |
| 既存のパワハラ・セクハラ対策の流用可 | 就業規則の懲戒規定 | 対象範囲に求職者等への行為を加える改定で足りる |
| 既存のパワハラ・セクハラ対策の流用可 | 年次のハラスメント研修 | 既存研修にカスハラ・求職者等セクハラの章を追加 |
| 既存のパワハラ・セクハラ対策の流用可 | 相談記録の様式と保管ルール | 既存様式に相談者区分の欄を足すだけ |
いま着手済みなのは、この表のどこまででしょうか。「両方に共通」の4つが空欄なら、そこが最優先です。両制度の土台を同時に作れるため、投入した時間あたりの効果が最も大きくなります。
施行日までの準備スケジュール|カスハラ対策・就活セクハラ防止義務化の実務ステップ
ステップ1:現状の棚卸し。既存のパワハラ・セクハラ規程、相談窓口、研修実績を洗い出し、流用できるものを特定します。
ステップ2:方針文書の作成・改定。両制度を1本にまとめ、指針の措置項目を見出しとして並べます。
ステップ3:就業規則・懲戒規定の改定。対象範囲に求職者等への行為を含めます。就業規則を変更する場合、労働者代表の意見聴取や労働基準監督署への届出といった手続が必要になることがあります。
ステップ4:相談窓口の整備と周知。社内向けと求職者等向けの2系統を用意し、後者は求人票・採用サイトに記載します。
ステップ5:研修と現場ルールの共有。面接官・リクルーター・顧客対応部署に、必要な内容を伝えます。
施行日が採用シーズンと重なる点にも注意してください。10月1日は内定式や次年度インターンシップ募集が動く時期です。面接官やリクルーターへの周知は、施行後ではなく採用活動が始まる前に済ませるほうが現場は混乱しません。

中小企業・個人事業主がカスハラ対策と就活セクハラ防止義務化に低コストで対応する方法

予算をかけられなくても義務は満たせます。指針が求める措置の柱は、方針を定めて周知すること、相談窓口を定めて周知すること、発生時に適切に対応すること。外部サービスの導入は要件に含まれていません。

厚労省の無料リソースだけで完結|カスハラ対策・就活セクハラ防止義務化のモデル文言活用術
厚生労働省は改正内容の資料を1つのページに集約して公開しています。指針全文、施行期日を定める政令、リーフレット、条文要綱がまとまっており、ここから取ればほぼ足ります(参考:厚生労働省「令和7年労働施策総合推進法等の一部改正について」)。
- リーフレット(詳細版)は講ずべき措置が番号付きで並んでいます。印刷してそのまま自社のチェックリストに使えます
- 告示第51号・第52号の本文には、方針文書に書くべき内容がほぼ文章の形で書かれています。自社名・窓口名・対処方針を差し替えれば骨格ができます
- リーフレット末尾には都道府県労働局雇用環境・均等部(室)の電話番号が全47都道府県分掲載されています。判断に迷ったら無料で相談できます
- 厚生労働省は業種別のカスタマーハラスメント対策企業マニュアル(スーパーマーケット業編・宅配業編など)も作成・公表しています。ただし本記事では内容まで確認していないため、使う際は厚生労働省のサイトで最新版を確認してください
ゼロから文章を考える必要はありません。公的資料の文言を土台にするほうが、要件から外れるリスクも小さくなります。
費用をかけずに整える相談窓口|カスハラ対策・就活セクハラ防止義務化の最低限ライン
社内で完結させる場合の最低ラインは次の5点です。
- 担当者を決める。経営者自身が担当する小規模事業者は、その人が行為者になり得る場面を想定し代替の連絡先も併記する
- 連絡手段を明示する。メールアドレス、電話番号、受付時間を書く
- 周知する。社内は掲示や書面配布、求職者等には求人票と採用ページへの記載
- 記録の様式を1枚用意する。日時・相談者の区分・内容・対応結果が書ければ十分
- 案内文に都道府県労働局雇用環境・均等部(室)の連絡先を併記する
外部委託しないこと自体は違反ではありません。求められているのは窓口を定めて周知し、担当者が適切に対応できる状態にすること。ここまでなら費用をかけずに自社で作れます。まずはこの5点から着手してみてください。
就活生・求職者がカスハラ対策・就活セクハラ防止義務化で知っておきたい相談先と対処法

ここからは企業側ではなく、被害を受ける可能性がある人に向けた内容です。2026年10月1日以降、企業は求職者等へのセクハラ防止措置を講じる義務を負います。相談を受け付ける体制を用意することも、その義務に含まれます。

「選考に影響するかもしれない」と考えて、何も言えないまま終わってしまうケースは珍しくありません。指針が不利益な取扱いの禁止と周知・啓発を求めている相手は、条文上は労働者です。ただ、求職者等向けの案内に「相談は選考に影響しない」旨まで書いている企業かどうかは、応募先を見極める手がかりになります。
被害に遭ったら記録を|就活セクハラ防止義務化で知っておきたい証拠の残し方
相談するかを決める前に、まず記録を残してください。次の項目を書き留めておくと、後から説明するときに困りません。
- いつ(日付と時刻)
- どこで(会社名・部署・場所。オンラインならツール名)
- 誰が(氏名・役職。分かる範囲で構いません)
- 何を言われたか、何をされたか(できるだけそのままの言葉で)
- 同席者や目撃者がいたか
- そのとき自分がどう感じ、どう返答したか
- やり取りの記録(メール、SNSのメッセージ、着信履歴のスクリーンショット)

記憶は日が経つほど曖昧になります。その日のうちにスマートフォンのメモへ数行残すだけで、相談時の説明の精度が変わります。相談するかを決めるのは後で構いません。まず残す、が先です。
就活セクハラの相談窓口|義務化後に使える企業窓口と労働局の使い分け
相談先は主に3つあります。
1つ目は企業の相談窓口。義務化後は求職者等にも周知されるため、求人票や採用サイトに記載されているはずです。ただし行為者が採用担当者本人だと使いにくい、という問題は残ります。
2つ目は都道府県労働局雇用環境・均等部(室)。全国47都道府県に設置され、改正労働施策総合推進法・改正男女雇用機会均等法に関する問い合わせ先として案内されています。受付時間は8時30分から17時15分(土日・祝日・年末年始を除く)。電話番号一覧は厚生労働省のリーフレットに掲載されています(参考:厚生労働省リーフレット「カスタマーハラスメント対策、求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が義務化されます!」)。企業の外にある窓口なので、応募先に直接言いにくい場合の選択肢になります。
3つ目は大学等のキャリアセンター。求職者等セクハラの指針は、大学等のキャリアセンターとの連携にも触れています。在学中なら身近な相談先です。

迷ったら、記録を持って労働局に電話するところからで大丈夫です。『被害に遭ったら記録を』で挙げた項目が揃っていれば、話は前に進みます。
カスハラ対策・就活セクハラ防止義務化のよくある質問

カスハラ対策と就活セクハラ防止義務化はパート・アルバイトも対象になりますか?
対象です。カスハラの措置義務は事業主が雇用する労働者を対象としており、指針に雇用形態による限定は置かれていません。パート・アルバイト・契約社員も含めて体制を整えてください。
カスハラ対策・就活セクハラ防止義務化に違反した場合、刑事罰はありますか?
刑事罰はありません。厚生労働大臣による助言・指導・勧告、勧告に従わなかった場合の企業名公表、報告の請求という行政上の仕組みで実効性が確保されます。順序は『刑事罰ではなく行政指導』で整理しています。
就活セクハラ防止義務化はOB・OG訪問やSNSでのやり取りも対象になりますか?
対象です。指針は求職活動等の例として、企業の雇用する労働者への訪問やインターンシップへの参加を挙げています。そのうえで、SNS等のオンラインを介したものやオンライン上で行われるものも含むとしています。
カスハラ対策・就活セクハラ防止義務化のまとめ|2026年10月1日までにすべきこと
2026年10月1日、根拠法の異なる2つの義務化が同時に始まります。カスハラ対策は労働施策総合推進法、就活セクハラ対策は男女雇用機会均等法。守られる人も想定される行為者も違うため、片方だけ整えても対応済みにはなりません。施行日までの優先順位は次のとおりです。
- 自社が対象かを確認する(企業規模を問わず全企業が対象。規模別の猶予はない)
- カスハラと求職者等セクハラをまとめた方針文書を1本作る
- 相談窓口を決め、社内と求職者等の両方に周知する(求職者等向けは求人票・採用サイトへの記載が必要)
- 就業規則・懲戒規定の対象範囲を点検する
- 面接官・リクルーター・顧客対応部署に必要な内容を周知する
刑事罰はありませんが、行政対応の負荷、企業名公表による採用への影響、民事上のリスクという実質的なコストは残ります。カスハラの相談があった企業は27.9%、就活セクハラの被害を受けた学生はおよそ3人に1人。対応しない選択のほうが高くつきます。
完璧な体制を10月1日までに作り切る必要はありません。指針が求める措置を並べ、着手済みと未着手を仕分けるところから始めてみてください。共通タスクから手をつければ、費用も工数も抑えられます。
参考情報
この記事は、以下の情報を参考にしています。
- 令和7年労働施策総合推進法等の一部改正について(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/zaitaku/index_00003.html
- リーフレット(詳細版)「カスタマーハラスメント対策、求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が義務化されます!」(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/content/001662630.pdf
- 職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第51号)https://www.mhlw.go.jp/content/001662625.pdf
- 求職活動等における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第52号)https://www.mhlw.go.jp/content/001662627.pdf
- ハラスメント対策・女性活躍推進に関する改正ポイントのご案内(厚生労働省 都道府県労働局雇用環境・均等部(室)、令和7年6月作成)https://www.mhlw.go.jp/content/001502758.pdf
- 労働施策総合推進法等の一部を改正する法律の公布について(令和7年6月11日 基発0611第1号・雇均発0611第1号)https://www.mhlw.go.jp/content/001502757.pdf
- 労働施策総合推進法等の一部を改正する法律の施行期日を定める政令(令和8年政令第17号)https://www.mhlw.go.jp/content/001662631.pdf
- 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(厚生労働省法令等データベースサービス)https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=75008000&dataType=0&pageNo=1
- 令和5年度厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査報告書(概要版)(令和6年3月・PwCコンサルティング合同会社)https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001541298.pdf
- 東京都カスタマー・ハラスメント防止条例(東京都産業労働局)https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp/basic/koyou/kasuharajourei
- 東京都カスタマー・ハラスメント防止条例施行(東京都・2025年3月報道発表)https://www.metro.tokyo.lg.jp/information/press/2025/03/2025032804
- カスハラとは?法改正により義務化されるカスハラ対策の内容やカスハラ加害者とならないためのポイントをご紹介(政府広報オンライン・2026年2月27日)https://www.gov-online.go.jp/article/202510/entry-9370.html








カスハラ対策と就活セクハラ対策、根拠法も守る相手も違う2つの義務化が同じ日に始まる点がポイントです。この記事を読むと、自社が対象かどうか、施行日までに何を整えればいいか、放置した場合のリスクまで判断できるようになりますよ。まずは『この記事でわかること』で全体の要点をつかんでから読み進めてみてください。